ある日、突然。

悪性高血圧と、それに伴う心不全・腎不全・網膜症・脳梗塞など。現在も続く治療のあれこれとその周辺を記録するブログです。

検査、検査、検査。

入院中はとにかく毎日、いろいろな検査をした。


日々何かの検査が予定されているようなのだが、
自分では何もわからず、とにかく次々と怒涛の如くやってくる。


同意書が必要なもの以外は特に説明もされないし、
最初のうちは自分のベッドの隣にその日の予定表があることにも
気付いていなかったので、何が何だかわからないまま、
まさにまな板の鯉の気持ちであった。


せっかく入院しているうちに、
できる限り検査してしまったほうがよいという
主治医の親心?もあったようだ。


たとえば心臓カテーテル。
外来で行うのと入院中に行うのでは、どうも保険点数が変わるらしく
そんなところも考慮してくれていたらしい。


いずれしなければならない検査ならば手早く入院中に、
という方針のもと、私の日々の予定は様々な検査で埋められていった。


もともと血液・尿検査は毎日だし、心電図や血圧・呼吸は24時間監視下。


CT、MRI、エコー、核医学、皮膚生検、心臓カテーテル、心筋生検、etc.


病気の原因を検索しながら進めていくので、
CTやMRI等の画像検査は心臓、脳、腎臓、肝臓、等々
ほとんど全身スキャンである。


主治医の人も「悪いところが多すぎて本当に大変!」とか
顔をしかめながら進めているくらいで、専門家でもそんなでは
医療素人の自分がもはや把握しきれないのも当然である。


そして、内臓のひとつひとつまでこうも他人の目にさらされては
もはや自分に隠さなければならないものなど何もないぞ。


…と私は自分を納得させることにした。


また医療に関して素人とかいう以前に、
緊急入院した私は集中治療室にいて、情報を本当に何も持ってなかった。


まったくの白紙なんである。


何しろこのくらい具合が悪くなっても、
病院とか健康とかまったく関心がなかったくらいである。


ただ、ふだんの私なら、職業柄、
自分が関わることは何であれ隅々まで調べずにはおけない性質だ。
通常運転なら、自分が受ける検査の方法や目的、
どういった内容がどのように出てくるのか、判断基準も含めがっちり調べる。


専門外の内容だし、調べて理解できるかという問題はあるが、
内容が理解できるかどうかと、調べた上で納得するかどうかは別物だ。


だというのに、集中治療室は携帯電話ひとつ使えなかった。


つまり、どんなに知りたくてもググることもできない。


一般病棟であればわりと自由にPCでも携帯電話でも通信が許されるのだが、
集中治療室は携帯電話の電波すらたたないのである。


主治医や看護師さんに尋ねれば、
ある程度のことは教えてもらえることがわかってはいたが
私が欲しいのはそういうことではない。


そして、病気だの検査だのについて調べたがっているということを
看護師さんやら他の人に知られるのも何か非常に嫌だった。


それくらいであればいっそ
主治医や看護師さんをまるごと信頼してまかせることにしよう、
と私はまな板の鯉になる覚悟を決めることにした。


ただ心臓カテーテルについてだけは事前に調べたかったなー、
と今でも思う。


いや本当に。

腎臓は替えがきく。

「腎臓の状態もあまりよくないから、ある程度腎臓にも気を遣うけど、
 いざとなったら心臓を優先するから。腎臓は替えがきくからね。」


入院してわりとすぐに主治医に言われて、衝撃を受けた言葉のひとつである。


入院すると、病状と今後の治療方針を説明される。


入院前に検査したり、治療方針をたてたりといった
前振りがあるときはまた違うだろうが、
私の場合、緊急入院という形で病院に入った。


そして入ったときにはすでに心不全を起こしており、
他の臓器障害は進み、急性のものもそうでないないものも
とにかく悪いところだらけだった。


入院するとすぐに病状説明があり、今後の治療方針が説明されるが、
緊急で入った私には過去治療の前歴等がまるでない。


したがって検査しながら、同時に治療を進めることになる。


しかも病状は刻々と変化する。


通常であればひとつひとつ事前説明を受けて治療を進めるところ
なのだろうが、そんなことをしていると間に合わなくなるので、
そういったところはすっとばし、
ある程度、医師の裁量におまかせして進めてもらうことになる。


で、最初の言葉につながるわけである。


入院時、とくに状態がよろしくなかったのが心臓だった。


心臓が弱り、体の血液の循環が悪くなると、
心臓に関連の深い臓器も影響を受けて徐々に働きが悪くなってくる。


心臓と非常に近しい関係にあると言われるのが腎臓だ。


実際、私も腎機能はかなり落ちていて、
入院時のeGFR(換算糸球体濾過率)は14。
日によって上がり下がりもあり、
急性の腎機能障害を起こしていると考えられた。


「eGFR15以下」は、一般的なCKD診断基準ではステージ5。
末期腎不全に足を踏み入れたところであり、
透析も視野に入れる必要が出てくる状態である。


一般社団法人日本腎臓学会 |  CKD関連
https://www.jsn.or.jp/ckd/pdf/CKD01.pdf


そして、そんな状態ではあるが、
ある程度臓器に負担をかけないと治療のための検査が進まない。


検査が進まなければ、治療ができない。


病状や原因を調べるための検査には、
造影剤を使用したり放射線を浴びたり、体や臓器に負担をかけるものも多いのだ。


万一の場合、弱った腎臓は機能を失い、一気に透析になる可能性がある。
ただ、治療できなければいずれ心臓は止まる。
たとえ他の臓器がなくなってしまっても、ほかに手段はある。
心臓が助かれば、少なくとも命はつなげる。
心臓が止まってしまえば、腎臓が助かっても何の意味もない。


「腎臓は替えがきく」とは、そういうことだ。


ある意味、究極の選択である。


命あっての物種。当たり前だ。


ただ、理屈は頭で理解しても、
ふだんから、自分の内臓は替えがきくものかどうかなんて
考えながら生活している人は、そうはいないだろう。


私自身もついさっきまで、外でふつうに生活していたのだ。


そして突然、目の前にそういう選択を突き付けられた。


いやいやいや、そんな簡単に替えられちゃっていいんだっけ???


私は、心不全とわかってから何度目かの途方に暮れた。
ドラマや小説にでも出てきそうな話が、
自分自身のこととして、目の前に提示されている。


まるで現実感がなかった。


そして、毎日、当たり前のように、
そんな選択をしながら生活しなければならない
お医者さんという人たちは、同じ日本に住んでいても、
自分とはまったく異なる文化圏の人たちであり。


生活や価値感が変わりそうだな、とぼんやり考えていた。

原因検索の日々。

NT-proBNP。
ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント。


ふつうの人はあまり聞かない言葉だと思うが、
心臓からでるホルモンで、心臓に負担がかかると大量に分泌されるため、
心不全のバイオマーカーとして使われている。


ちなみに、調べ方は簡単だ。
血液検査である。


このNT-proBNPが、私の入院時は2万6000を超えていたらしい。


桁をひとつ間違えてないかとよく言われるが、確かにこの数字である。


ちなみにNT-proBNPの基準値は
およそ125未満で正常値、900以上で治療対象の可能性が高く、
その値の大きさは心臓のあげる悲鳴の大きさの程度を表すという。



だとすると、私の心臓は相当大きな悲鳴をあげていたことになる。


実際、病院で見せられた入院時の私の心臓の3D動画、
あれは心臓MRI検査で作成されたのだろうか、
まともな拍動が打てず、前後左右にグニグニとのたうつ様を見せられた時
まさに心臓から断末魔の悲鳴、声なき声が聞こえた気がした。


衝撃の映像。
ヤバイでしょ。
心臓のポンプ機能の破綻、とはこういうことか。


視覚の威力というのはすさまじい。
ふつうの心臓の拍動を見たことがあるわけではないが
自分の見たそれが普通でないということだけは十二分に伝わった。
そういう動きだった。
何か自分の心臓を見ているとも思えない、遠い気持ちになったものだ。


人間、自分の理解を超えたものを見せられると、
妙に冷静になってしまうものである。


また、私が気管支喘息だと思っていたものは心臓喘息であり、
胸水がたまっていること、嘔吐・食欲不振、全身の浮腫、
夜中に何度も目が覚めていたのは起坐呼吸であることなど、
おおよそ心不全からきているものだと説明された。



心臓がこのような調子であったので、
とにもかくにもまずは血圧を下げ、心臓の状態を落ち着かせるとともに、
同時進行で、その元となった悪性高血圧の原因を検索する日々が始まった。


血圧値が極端に高いとはいえ、
ただの高血圧性にしては心臓や腎臓など
いろいろな内臓の障害があまりにひどい。


そういうことで、2次性高血圧の疑いがかかったのだ。



要は、原因となった病気がまだほかに潜んでいる可能性がある、と。


心室壁の心筋の厚さが異常に分厚くなっていること
(女性平均10mm前後のところ、私は18mmくらいあった)、
コルチゾールなどホルモンの値にも異常値があること、
腎臓のクレアチニン値が下がり続けていること、等々。


諸々の症状を斟酌して、次のような病気が可能性として告げられた。


肥大型心筋症
ファブリー病
アミロイドーシス
脳腫瘍(クッシング病)
副腎腫瘍(褐色細胞腫、レニン産生腫瘍)
腎動脈狭窄
睡眠時無呼吸症候群


[公益財団法人循環器病研究振興財団 | 知っておきたい循環器病あれこれ]
http://www.jcvrf.jp/general/pdf_arekore/arekore_008.pdf


副腎や腎等のホルモン異常や腫瘍、遺伝病などである。


直接的・間接的な要因として、
まずは様々な可能性を考慮しつつ検査を進めることになったが、
このうち、最も有力視されたのがファブリー病。



全身性の代謝異常。遺伝病である。


このため、家族歴までさかのぼって検査と治療を進めていくことになった。