ある日、突然。

悪性高血圧と、それに伴う心不全・腎不全・網膜症・脳梗塞など。現在も続く治療のあれこれとその周辺を記録するブログです。

忘れられない出来事。

そんなこんなで体調の悪い日々をしばらく過ごしているなかで
いろいろなことがあったけれど、忘れられない出来事がひとつある。


私はふだんマーケティング・リサーチの仕事をしている。


新商品の開発であったり、商品の使用実態であったり、
あるいはブランドイメージについて等々。
いろいろな企業から相談された内容に沿って、
調査計画を立て、リサーチし、データを集計分析し、報告書にまとめていく。


そんな仕事だ。


4月のある日。
その日はとあるリサーチの調査結果をクライアントに報告に行く日だった。


ところが例によって、どうも朝から非常に調子が出ない。


その頃は、少し歩いて休憩したときに、
具合が落ち着くか、それとももっと苦しくなるかで、
その日の体調がなんとなく推しはかれるようになっていたが
どう考えても、いつにもまして何か体調がおかしかった。


だが報告に行くと決まっている以上、当日のドタキャンはありえない。


無理を押して会社から出たが、案の定、歩くといつも以上に苦しく、
タクシーに乗ると一言も口がきけないくらい胸が詰まって感じる。


となりで部下が心配そうに見ながらなんと声を掛けたらいいかわからない、
といった様子でいるのが目端に入り、
「大丈夫、大丈夫。」と言い聞かせると、何とかタクシーを出発させた。


しかしクライアント先のビルに到着してからも、
何とか歩いてはいるものの、数歩歩いても息が詰まり、
先方に気付かせずに会議室まで歩ききれるかどうか
自分でも自信がもてない。


ここまで状態をひどく感じたのは初めてだった。


ただ来てしまった以上はやるしかない、
とほとんど意地だけで報告会を終わらせた。


報告会自体はクライアントにもまずまず好評なようで、
しかもこちらの体調に気づかせずに、うまく終わらせることができた。


とにかくほっと肩の荷が下りると、
挨拶もそこそこに別れ、ロビーからビルの外に出ようとした。


その日は少し小雨で、外は室内より少し気温が低かった。


ビルの正面玄関、自動ドアをくぐる。
外に出ようとする。


するとそこに透明な鋼鉄の壁があったのだ。


たった1歩。
だが透明な壁に阻まれて、その1歩が前に出せない。


あせって少し中に戻りもう一度出ようとするが、やはりダメだ。


出られない。


身体がいうことをきかず、足がまったく前に出ない。


行きつ戻りつ、ロビーと入り口を何度かうろうろしたのち、
そのままでは埒が明かないとを悟った私は、部下だけ先に会社に戻し、
自分はロビーで少し休憩してから戻ることにした。


胸が詰まるとか、息が苦しいということはあっても、
身体がいうことをきかず足がまったく前に出ない、
そんな尋常でない感覚は、後にも先にもあの時だけだった。

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